世界が終わる夜に

 

 

 

お誕生日だった。

 

 

彼は車で私を迎えに来て

後部座席に隠していた大きな花束を

会ってすぐに渡してくれた。

 

 

きっと花束はもらうだろうなと思っていたから

あまり驚きはしなかったけど

暗い車内で彼の緊張が伝わって

なんだか私まで緊張してしまった。

 

 

 

すごく大きな花束だった。

 

可愛い。ありがとう。

と何度も言った。

 

 

 

 

彼は

今日は私がしたいことを

全部しようと言ってくれた。

 

 

 

 

 

 

それから2人でジャズクラブに行った。

 

 

夜景が見えるバルコニーで

変な間があったので

 

なんだこの間は。

絶対何か言おうとしてる。

 

と思って恥ずかしくなって

ひたすら私がベラベラ話し続けてしまった。

 

 

 

 

結局彼が言いたかったのは

 

「こんなに素敵だなって思う人に会ったのは久しぶり」

 

ということらしかった。

 

 

ありがとね。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそのあと彼のお客さんに偶然会った。

 

 

彼女ってことにしていい?って言ってたけど

ほんとに彼女にしてくれてもいいよって

言えばよかったのかな、あの時。

 

 

 

 

こうやって周りの人達に

「彼女ってことにしてく」なら

もういっそほんとに付き合ってよって思う。

 

 

 

けどその覚悟はまだないんでしょうね。

 

 

 

 

彼のお客さんはみんないい人で

私のことも今度家に招いてくれるらしい。

 

 

 

みんな彼の女に興味があるらしく

席の近くを通るたびに見られてた。

 

 

私はドヤ顔で歩くだけだ。

 

 

 

 

 

 

そういえばこの夜はドレスを着て出掛けた。

 

 

胸元が空いたドレスだったので

ここぞとばかりに胸を盛った。

 

 

 

 

なんだか急にスタイルが良くなった気がして

浮かれた私は彼に何度も

見て!見て!と胸元を見せたけど

 

彼は

あってもなくてもいいよ

としきりにそう言っていた。

 

 

 

 

 

ドレス可愛い

ネイル可愛い

髪の毛可愛い

今日めっちゃ可愛い

 

と何度も言われた。

 

 

 

 

 

 

 

演奏が始まって

お酒が進んで

すごくいい気分だった。

 

 

 

 

 

彼は少しずつ椅子をこちらに

寄せてきて面白かった。

 

 

 

 

手を繋いだり

目が合うとキスをしたり

私達はお互いに酔っていた。

 

 

 

 

 

 

彼は最高にセクシーだったし

優しくて、面白くて

私のことを好きなのが伝わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

心配なことや不安なことや

居心地の悪い気持ちはそこになかった。

 

 

私はいつもちょっとしたことで

居心地の悪い気持ちになってしまうけど

そこには何もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

彼のお客さんが

サックス演奏者のお友達らしくて

バンドに私が誕生日だということを

伝えてくれていて

なんとハッピーバースデーしいちゃん

と言われて曲もプレゼントしてもらった。

 

 

 

 

 

カメラマンの素敵なおじさんが

ジャジーな誕生日だね

と私に言ってくれて

それもまたお洒落だった。

 

 

 

 

 

 

音楽が好きな男の人がいいって

私ずっと言ってたよね。

 

 

私より音楽が好きな男の人、

久しぶりに会ったなって思う。

 

 

 

 

 

 

彼はお客さんに

ブリスベンに来て一番良い夜かもしれないです」

と言っていて嬉しかった。

 

 

私もだよ。

 

 

 

 

 

 

 

最後、私にバースデーソングを

歌ってくれたおじさんに

ありがとうを言いにいった。

 

 

 

彼はおじさんのことをすごく気に入って

また絶対あなたのギグに行くねと言っていた。

 

 

 

 

 

 

「月1?」と彼は私に同意を求める。

 

月1でこんなところに2人で来れるようになりたいね。

 

2人だけの行事になったらいいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰ったら彼のシェアメイトが

パーティーをしていてカオスだった。

 

 

私も酔っていたので

誰よりもはしゃいでしまった。

 

 

彼の同僚にダンスを強要してしまったんだけど大丈夫だっただろうか。

 

 

酔っていたし

最高にいい気分で楽しかった。

 

 

 

 

みんながクラブへ出掛けた後

ルパンのジャズバージョンを流して

彼と2人きりで踊った。

 

 

 

彼はいつも頑なに私のダンスを断るけど

この日はお誕生日だから仕方なく踊ってくれていた。

 

と思いきや後半は彼の方がノリノリだった。

 

 

 

 

 

ダンスをして

キスをして

ベッドへ行った。

 

 

 

なんだか忘れてしまったけど途中

とにかくめちゃくちゃ面白いことが起きて

私達はずっと爆笑していた。

 

 

爆笑している私達が好き。

もっと彼を笑わせてあげたいなと私はいつも思う。

 

 

 

 

 

 

勇気を出して

「私じゅんくんのこと好きだと思う」と言った。

 

 

 

結構勇気を出した。

 

普段なら絶対に言わないことだし

言っちゃダメだと思い込んでたから。

 

 

 

けどほんとはずっと言いたかったんだ。

 

 

 

彼は間髪あけずに

「俺も好きだよ」と言ってくれたけど

なんとなく言葉が宙に浮いているみたいで

翌朝言わなければよかったとひとりで後悔した。

 

 

 

 

 

眠っている時

後ろからすごくキツく抱きしめられて

好きって言われた。

 

 

 

 

多分夜も言われたんだと思うけど

酒に酔いすぎていて覚えてない。

 

 

 

 

けど朝の好きは

覚えてて?と言われたので覚えてる。

 

 

 

 

「結構好きになっちゃったんだよな〜」

って言ってて

 

私は「困ったねえ」とか言って誤魔化してしまった。

 

 

 

 

私も結構好きだよ。

 

 

 

 

 

 

私のドレス姿の写真を撮り損ねたことを

彼はすごく後悔していてそれが嬉しかった。

 

 

 

 

 

そして

家どうするの?と聞かれた。

 

 

一緒に住もうって言ってくれるのを待ってるんだよ。

 

 

 

早くそうなればいいのに。

 

 

 

ねえ。